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光無線給電とは
光を用いた無線給電方式である.既に存在する無線給電方式として,電磁誘導や磁界共鳴・電界共鳴,電波ビームを用いる方式がある.これらは,電磁気学的な結合や電磁波の放射を利用している.光も本質的には電磁波であるため,エネルギーの媒体という点で物理的には同じである.特に,電波ビーム方式と光無線給電は電磁波を空間に放射するという点では全く同じである.
一方,既存の無線給電方式が用いる電磁波の周波数と,光の周波数には5-9桁もの違いがある.光の周波数は高く,波長が数マイクロメートルと短いため,空間伝搬における拡がり(光の回折)が十分小さい.このため,小型装置,小径ビームで長距離のエネルギー伝送が可能となる.
光の生成方式や受光方式にも大きな違いがある.光に比べて低周波な電磁波は,いわゆる電気回路で生成し,アンテナを用いて放射が可能である.光については,LEDやレーザといった,固体中の電子の再結合エネルギーを利用する必要がある.このため,光無線給電は,そのエネルギーの発生や放射に物理的方式も,既存無線給電とは大きく異なるといえる.
このような違いから,光無線給電は既存の無線給電とは異なる利用法やシステム,および応用機器が考えられるため,光無線給電に特化した発展を想定することが有効である.
本検討会が対象とする光無線給電システムは,以下の項目の範囲を考えている.
- 光源から出射した光を空間伝搬させ,受光器で電気エネルギーに変換して給電するシステム.
- ここでの光とは,赤外線から紫外線までの電磁波とする.
- 無線とは,光が主に伝搬する領域が,自由空間とみなせる場合である.
- 伝搬領域は,自由空間とみなせればよいため,真空,空気などの気体に限らず,液体,固体も含む.
- 光源は電気エネルギーを光に変換するデバイスであり,発光原理は限定しない.
- 受光器は光を電気エネルギーに変換するデバイスであり,受光原理は限定しない.
光無線給電の適用領域
光無線給電は,給電の電力量を比較的大きな範囲までカバー可能であり,また,その伝送距離も比較的長距離が可能という特徴があると考えられる.
既存無線級d年方式の主な適用可能範囲とともに,光無線給電の適用範囲を図1に示した.また,その適用範囲における主な機器・装置を図2に示した.
図1 光無線給電の適用範囲
図2 光無線給電の適用機器・装置
図2から,特に既存の無線給電方式では十分にカバーできない,比較的大きな電力,比較的長距離の機器・装置には光無線給電の利用が適することが分かる.
また,既存の無線給電方式が利用されている機器でも,光無線給電を利用することも可能である.
光無線給電の利点欠点
光方式も含む無線給電の利点は以下となる.
- 配線がなく,機器の設置や利用の自由度拡大
- 配線がなく,見栄え向上
- 給電設備の工事・設置・保守が容易
- 移動物体の連続運用
- 充電池削減による機器の重量低減
- 感電抑制や水中利用
- 災害時等の給電復旧,給電準備が容易
さらに,光無線給電の利点は以下となる.
- 光ビームの範囲の制御で周囲漏洩抑制
- 放射角の狭い光ビームを利用することで,伝送距離を長くできる.
- 光ビームサイズに比べて,受光器サイズを大きくすることで,位置合わせ許容度大.
- 小型で高出力な光源により小型で大電力給電
- 受光器を太陽電池とすることで,太陽光による発電も併用可能
一方で,光無線給電にも欠点や課題がある.光源の電気光変換効率と,受光器の光電気変換効率の掛け合わせがシステム効率の上限となるが,現在のデバイスでは,100%に近い効率化は困難であり,50%程度が当面の上限と考えられる.また,高強度のレーザ光は,眼への安全性,照射物体の加熱の安全性に注意が必要である.また,不透明物体を通した給電が困難であり,見通し範囲のみへの給電となる.特に安全性の確保は,既存無線給電と同様に,各種の規制のもとに利用することが必須である.ただし,物理的に狭いビームが利用可能な光無線給電は,安全性確保のためのセンシングシステムを適用することで,高い安全性が確保できるようになると考えられる.
実際の利用には,現在の規制の下で利用する状況から,段階的に高度な安全装置を利用することで規制緩和を進めることで,多様な応用展開が可能になる.図3に段階的展開の想定を示す.
図3 安全性を考慮した光無線給電の段階的展開
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